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2014年2月14日金曜日

集団的自衛権について(学習レジュメ)

あちらこちらで集団的自衛権について学習講師を行っています。そのレジュメをアップしますのでご活用ください。

守岡等

集団的自衛権について

2.安倍内閣はどのように戦争する国づくりを準備しているか
*2013秋の臨時国会   
国家安全保障会議(NSC)の設立法
特定秘密保護法
*2014通常国会       
4月 安保法制懇報告
集団的自衛権の容認
安全保障基本法案
*秋の臨時国会    
集団的自衛権行使容認に必要な関連法案の整備
*2015通常国会       
国家情報局設置法案
*2016                
参院選前に改憲を国会で発議?
衆参同日選挙にして、国民投票も同時に実施?(日経)

3.そもそも集団的自衛権とは何か
(1)国連憲章第51条で初めて打ち出された概念
  この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が 国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するも のではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければな らない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行 動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。

(2)日本国政府はどのような見解をしめしているか(防衛相HPより)

1憲法と自衛権
 ・憲法9条の規定は主権国家としての固有の自衛権を否定するものではない。
 ・自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上認められると解する。
 ・専守防衛(他国へ攻撃をしかけることなく、攻撃を受けたときにのみ武力を行使して、自国を防
  衛すること)を基本的方針として自衛隊を保持する。
 2憲法9条の趣旨についての政府見解
 ①保持し得る自衛力
 ・保持し得る自衛力は必要最小限度のものでなければならない。
 ・「自衛のための必要最小限度の実力の具体的な限度は、その時々の国際情勢、軍事技術の水準その他の諸条件により変わり得る相対的な面を有していますが、憲法第9条第2項で保持が禁止されている「戦力」に当たるか否かは、わが国が保持する全体の実力についての問題です。自衛隊の保有する個々の兵器については、これを保有することにより、わが国の保持する実力の全体がこの限度を超えることとなるか否かによって、その保有の可否が決められます」?? →国会の判断
 ・性能上相手国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられる攻撃的兵器の保有は許されない。
    ICBM(大陸弾道弾ミサイル)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母
 ②自衛権発動の要件
 1)我が国に対する急迫不正の侵害があること
 2)この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと
 3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
 ③自衛権を行使できる地理的範囲
 ・個々の状況に応じて異なるので一概にはいえない。
 ・海外派兵は憲法上許されない。
 ④集団的自衛権
 ・国際法上、集団的自衛権を有していることは主権国家である以上当然。
 ・「しかし、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであり、他国に加えられた武力攻撃を実力をもって阻止することを内容とする集団的自衛権の行使は、これを超えるものであって、憲法上許されないと考えている」
 ⑤交戦権
 ・防衛のための必要最低限の実力行使は、交戦権の行使とは別のものである。

(3)憲法9条が生まれた背景はどのようなものか
①ポツダム宣言の受諾
 軍国主義の根絶、完全な武装解除、民主主義と基本的人権の確立
②9条の理解に当たってはポツダム宣言の趣旨を忘れてはいけない

4.憲法解釈を変更して集団的自衛権を容認する動き
(1)首相私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)設置
①第一次安倍内閣時に発足(2008年6月に報告書)
<安倍首相が4類型を問題提起>  すべて日本周辺とは無関係
①公海における米艦船の防護               
②米本土に向かう弾道ミサイル防衛         
③PKO活動における自衛隊の武器使用
④PKO活動等における他国への後方支援

<報告書の概要>
①憲法9条に関する基本認識
・客観情勢、我が国の主体的条件は大きく変容。国際社会における地位、責任は増大。これに応じて憲法解釈も不断に再検討しなければならない。
・日米同盟をさらに実効性の高いものにする。特に北朝鮮ミサイルを追尾する日米イージス艦の共同行動。
・4類型対処に当たっては新しい憲法解釈が必要。
・憲法9条は個別的自衛権はもとより、集団的自衛権の行使や国連の集団安全保障への参加を禁ずるものではないと解釈すべき。
・憲法9条は、武力の行使を、国際紛争を解決する手段としては禁止しているが、我が国が国連等の枠組みの下での国際的な平和活動を通じて、第三国間の国際紛争の解決に協力することは、むしろ憲法前文「我らは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない…」からも期待されている分野だ。
<4類型への提言>
①集団的自衛権の行使を認める必要がある。
②集団的自衛権の行使に頼らざるを得ない。
③国際的な平和活動への参加は、憲法9条で禁止されないと整理すべき。
④集団安全保障への参加が憲法上禁じられていないとの立場をとればこの問題も解決する。

<4類型批判>
①アメリカの艦艇が攻撃されたとき、同盟国日本が何もしないのはまずいか?
・日本近海であれば個別自衛権で対応可能。想定しているのはたまたま公海上で日米艦艇が近くにいて、たまたま攻撃を受けたというおよそ法律論では成り立たない空想の概念。
・日米の艦艇が密集した陣形をとることはあり得ない。現代戦の艦艇は潜水艦への警戒から数キロも距離を取り、散らばって行動するのが常識。他の艦艇を防護するのは不可能。=非現実的
②北朝鮮が米国を狙った弾道ミサイルが日本の上空を飛んでいくときどうする?
・政府答弁でも「ミサイル迎撃は非常に難しい」
・北朝鮮のミサイルは日本上空を飛ばない。北極上空を通過。=非現実的
③PKO活動における自衛隊の武器使用は認められるか?
・平和構築をめざし、安全地帯で活動するPKOの趣旨に反する。
・治安が悪化するところで道路補修はしない。撤収すればよいだけの話。
④PKO活動における他国への後方支援はどうする?
・PKO5原則(停戦合意が成立、紛争当事国によるPKO実施と日本の参加への合意、中立的立場の厳守、基本方針が満たされない場合は撤収、武器の使用は必要最小限)により撤収すればよい。
・他国の軍隊が武力行使する予定のPKOなど存在しない。

(2)第二次安倍内閣で「懇談会」を再開
・昨年2月、9月、10月、11月、12月と5回の会合を経て、まもなく最終報告
<世界的規模に拡大>
○緊急事態への対応を法整備する(防衛出動が下令されなくても自衛権を行使)
 現行法は国会の承認にもとづいて防衛出動が下令される。文民統制の歯止めがなくなれば際限なく戦争が拡大する恐れ。関東軍がいい例。

○サイバーセキュリティーへの対応をはかる
 サイバー攻撃(コンピューターウイルスなどを利用した情報搾取、システム破壊など)に対して自衛権行使が認められるか疑問。攻撃の主体を特定することが難しいし、国家犯罪を立証するのも困難。自衛権を行使する際もエレクトロニクスに限定しなければならない制約あり。

○マイナー自衛権(武装漁民による離島占拠、レーダー照射など武力攻撃とまでは言えないグレーゾーン対応)についても詰める必要がある。
 政府の統一見解はないが、出入国管理法違反や銃刀法違反など通常の日本国内法で取り締まればいい。

○国連安保理の決議または承認の下における多国籍軍への参加も可能にすべきである。イラク戦争の例。「集団安全保障に参加しなければ我が国が有事に巻き込まれたとき国際社会の支援を受けられな くなる」
 多国籍軍方式は集団安全保障の私物化(後述参照)。ちなみにイラク戦争で(フランス)・ドイツは多国籍軍に参加せず。

○政府解釈はスタートから誤っている。憲法は自衛権を放棄していない。自衛権を放棄していないならば、その自衛権の中に個別的自衛権も集団的自衛権も当然入る。
 内閣法制局の論議の積み重ねで成り立つ政府解釈を、こんなに簡単に覆すことの重大性を理解していない(後述)

○自衛権を行使する自衛隊の活動の場所に、地理的な限定を設けることは適切でない。
 これが本音。集団的自衛権行使における日本のメリットはない。

○国連憲章51条は、日本が自然権として集団的自衛権を持つことを認めている。
 自然権ではない(後述)。

○国連の集団安全保障措置への参加についいては、基本的には我が国が当事国である国際紛争を解決する手段としての武力行使に当たらず、憲法上禁止されていないと解すべき。参加の仕方については、国際協調と国際平和を希求する我が国の憲法の精神に合致することが前提とされるべき。
 集団安全保障と集団的自衛権を混同していなければこれは正しい。

○PKOへの参加、駆けつけ警護や妨害排除に際する武器使用については、少なくとも国連PKOの国際基準で認められた武器使用が国連憲章で禁止された武力の行使に当たると解釈している国はどこにもなく、自衛隊がPKOの一員として駆けつけ警護や妨害排除のために国際基準に従って行う武器使用は、そもそも武力の行使に当たらず、憲法9条の禁じる武力の行使に当たらないと解すべき。
 PKOの目的・性格をゆがめている(前述)。

(3)内閣法制局長を変えて憲法解釈を変えることの問題
①「法の番人」内閣法制局がこれまでの一貫した政府見解を示してきた
②局長を代えて憲法解釈を変えることの重大さを理解してない
1)法制局の権威低下、無視される危険性→法治国家の危機
2)法制局の質的低下、解釈変更で集団的自衛権を認めれば訴訟の嵐に→裁判に耐えられるか
   これまでの法律で違憲判決はない(唯一国籍法違憲判決のみ)
   もし海外派遣後に集団的自衛権違憲判決が出たらどうなるか
2/13衆院予算委員会での安倍首相答弁
  憲法解釈の最高責任者は私だ。政府答弁に私が責任を持って、その上で選挙で国民の審判を受ける。審判を受けるのは内閣法制局長官ではない。私だ。

・自民党内からも時の政権の判断によって、法制局が積み上げてきた憲法解釈の変更が頻繁に繰り返され、憲法の安定性が損なわれることを危惧する声

5.「集団的自衛権推進論」の虚構
(1)国連憲章の理念
①国連憲章は国際関係の「武力の行使」を原則禁止
第2条4 すべての加盟国は、その国際関係において、武力よる威嚇又は武力の行使を、いかな
る国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかな
る方法によるものも慎まなければならない。

②ただし二つの例外で「武力行使」を認めている。
a.国連の集団安全保障措置
第39条 安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条[非軍事的措置]及び第42条[軍事的措置] に従っていかなる措置をとるかを決定する。

*国連憲章の理念は「武力行使」の禁止が原則。国連軍の創設(ただし実現せず)を含めた集団安全保障措置を導入。侵略行為の存在の認定等、措置の発動権限は安保理に委ねた。
*集団安全保障(勧告・経済制裁・軍事措置)…1990湾岸戦時の日本の対応は国連集団安全保障の政策に合致するもの

 「集団安全保障」と「集団的自衛権」は似て非なるものである。  (安保法制懇は混同)

b.個別的又は集団的措置
  第51条 この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、 安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任 に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。
<51条挿入の経緯>
*当初案に51条はなかった。
*米ソ対立が明らかになる中、大国の拒否権行使の対策としてアメリカが集団的自衛権を持ち出した。
*その後、安保理の許可を必要としない勢力間の勢力維持の軍事行動に活用された。

<「集団的自衛権の発動」として行われた戦争> すべて大国による勢力内国家への介入
1956ソ連のハンガリー介入 1958米英のレバノン・ヨルダン介入 1964イギリスのイエメン介入
1966アメリカのベトナム侵略 1968ソ連のチェコスロバキア侵略 1980ソ連のアフガニスタン介入
1983アメリカのグレナダ介入 1984アメリカのニカラグア介入 1986フランスのチャド介入
 

集団的自衛権は概念矛盾で冷戦構造の産物。自然権ではない。  …安保法制懇は自然権と主張

(2)国連憲章の「集団安全保障」とは
①経済、社会、文化、人道等様々な分野で起こる問題を国際協力で解決。国際紛争の種を未然防止。
②紛争が起こった場合も、当事国に平和的解決を求める。安保理も平和的解決のため努力。
③破壊・侵略行為が起こった場合、安保理は事態の悪化を防ぐ暫定措置を講じ、非軍事的措置で問題解決を図ることを追求。
④国連(安保理)が軍事的措置をとるのは「非軍事的措置では不十分であろうと認め、又は不十分なことが判明したと認めるとき」の最終手段として。
⑤軍事行動の主体は安保理であり、国連加盟国は安保理との特別協定にもとづいて必要な兵力を安保 理に利用させる。(集団安全保障のための軍事的措置をとる主体は安保理であり、個々の加盟国ではない)

国連の集団安全保障体制のポイントは二つ(自衛権・集団的自衛権とははっきり違うこと)
  1)安保理が国際平和と安全を守る主要な責任を担うこと(大国ではない)。
  2)それが実現を目指すのは、国際平和と安全を維持し、回復することであり、侵略を犯した国家
   との軍事的対決ではないこと

<現実における集団保障体制>
*湾岸戦争でアメリカ主導の多国籍軍を安保理の代理と認めた(集団安全保障と集団的自衛権の入り交じり)
*国連ソマリア活動…アメリカは多国籍軍から撤退、国連も撤収
*ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦…NATOの空爆、憲章の根幹を揺るがす
*コソボ、東チモールで展開したNATOの中心部隊に国連は「すべて必要な手段」をとることを認めた。
多国籍軍方式は集団安全保障の私物化という指摘
国連理念と現実の乖離、その背景にある兵器産業(巨大なアメリカの軍産複合体)、武器密輸の闇

(3)日本国憲法の理念をゆがめる動き
<推進派の憲法観>
・憲法前文「国際社会における名誉ある地位を占めたい」
 名誉ある地位は国際環境と国力の関数である、としてこれまで自国民を守る必要最小限のものしか持てないといわれた憲法解釈を変更すべき。
(前文全体を省略し、部分だけに焦点をあてた詭弁。少なくとも直前の「われらは平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努める国際社会において…」から成り立たない概念)
・憲法9条が禁じているのは、個別国家としての我が国による戦争・武力行使であり、国連の集団安 全保障や国連PKOとは次元を異にするもので、憲法で禁止されていない。
(集団安全保障と集団的自衛権の混同)
・9条の対象となっている戦争、武力の行使、個別的自衛権、集団的自衛権、集団安全保障等は、本来国際法上の概念であり、国際法及び国際関係の十分な理解なしには適切な解釈はなしえない。
(国際法を守れというのなら、日本はポツダム宣言に法的に縛られており、安倍政権は改憲内容・憲法解釈の変更がポツダム宣言と矛盾しないことを中国・ロシアに説明して了解を取り付ける法的義務を負っている)
・これまでの憲法解釈は乏しい資源を軍事に割くことなく、敗戦の荒廃から必死に立ち直ろうとして いた我が国の時代背景を反映したものだった。

6.国家安全保障基本法の制定の動き  立法措置で解釈改憲
(1)法案の概要
第8条「自衛隊」…「陸上・海上・航空自衛隊を保有する」…憲法9条2項と矛盾
         「公共の秩序の維持にあたる」…自衛隊による国民監視の合法化
第10条「国連憲章に定められた自衛権の行使」…国連憲章第51条の規定を根拠に集団的自衛権行使を容認。
第11条「国連憲章上の安全保障措置への参加」…国連安保理決議があれば、海外における武力行使を認める。
第12条「武器の輸出入等」…武器輸出を禁じた「武器輸出三原則」を放棄
(2)憲法・憲法解釈に反する法案が提出できるか
①内閣立法は憲法との関係を審査する内閣法制局の段階で提出にストップがかかる。
②議員立法は別。法制局が審議して意見を述べるが、提出を決めるのは立法権のある議員。
 衆議院法制局「立法権があるのは国会議員であり、法制局ではない。しかし、議員立法では委員会や本会議で法案への質問に答えるのは提案議員。相当な覚悟が必要になる」

 実質の憲法改悪、自衛隊の戦争参加への道を拓くもの

7.なぜ集団的自衛権容認を急ぐのか
(1)アメリカの圧力
◎「アーミテージ報告」(超党派の「戦略国際研究所」報告書)…日本への「勧告」と称する「命令」
①第一次報告(2000.10)
・「日本が集団的自衛権を禁止していることは、同盟国間の協力にとって制約となっている」
②第二次報告(2007.2)
・集団的自衛権公使の容認を再度要求。
・9条改憲要求。国家機密情報保護体制・日本版NSC(国家安全保障会議)の整備も要求
③第三次要求(2012.8)
・集団的自衛権行使の要求からさらに大きく踏み込む
・軍事面における日本の「役割・任務・能力」の見直し
・日本領土の範囲をはるかに超えた相互分担、相互運用可能な監視活動(情報、監視、偵察)を要求
・米軍、自衛隊の全面的協力を要求
・共同演習、武器輸出三原則緩和と武器共同開発、秘密保護法制の整備

(「アメリカの要求」は数年後の日本の国策)
■日米年次改革要望書(1994~)
 郵政民営化、医療改革、労働者派遣法、法科大学院設置、建築基準法改正
(年次改革要望書を廃止した鳩山内閣→米の怒りで鳩山・小沢は失脚)
(しかし、オバマ政権は集団的自衛権行使を歓迎しない)
・アメリカの二つの潮流 アーミテージに代表される武力派
            ブレジンスキー「日米同盟だけでなく中国も巻き込んだアジア戦略」

◎アメリカの経済力・戦力低下
*米軍予算大幅削減→同盟国の役割分担強化
*アメリカの行う戦争に日本の兵士を送り込みたい

(2)改憲反対世論の広がり
*9条改憲反対、96条改憲反対とも過半数を超える状況
*解釈改憲・集団的自衛権行使を優先に

(3)北朝鮮、尖閣諸島問題
①集団的自衛権、マイナー自衛権の行使の対象に北朝鮮、尖閣問題があるのは確か
②しかし、安保条約で十分間に合う話
 ・世界の裏側まで派兵できるシステム作り…第二次安保懇
  ・相手が攻撃したとき(安保条約) 攻撃するかもしれない(集団的自衛権・イラクの例)

8.象徴的な麻生発言 ナチス・ヒトラー独裁政治誕生の背景
ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも
気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。

①現在の日本と共通する時代背景
・経済不況、失業率30%
・対外関係の行き詰まり、孤立化
・閉塞感→強い指導者への期待
②不安定な政治
・13年間で政権交代が9回、21名の首相が誕生(日本は2001年から13年間で首相8人)
・経済政策の失敗…増税してデフレ
・ナチスと同時に共産党も躍進(維新と日本共産党)
③33%の得票率でナチス連立政権、ヒトラー首相誕生
・首相は大統領が任命
④政権樹立後~独裁政治確立まで
  1933年
  ・1/30ヒトラーを首相に任命
  ・2/27国会議事堂放火事件
  ・2/28緊急大統領令発令 基本的人権のほとんどが停止、共産党員の大量逮捕
  ・3/23授権法(全権委任法)成立 立法権を政府が掌握、憲法違反の政策可能 独裁体制の確立
     (国会の2/3の賛成が必要→共産党の議席を剥奪し、分母を減らす)
  ・10/21国際連盟脱退
  1934年
  ・8/19国家元首に関する法律の措置に対する国民投票 投票率95.7%、うち89.9%が賛成票
  1936年
  ・8/1ベルリンオリンピック開幕

9.米国の戦略転換と日本が歩むべき道
(1)中国重視のアメリカのアジア戦略
①2010年、中国はGDPで日本を抜き世界2位に。2020年頃には米国を抜いて1位に?
②アメリカの輸出は2007年以降、日本よりも中国が上回っている
 *中国の輸出相手は(日本を10とすると2009年)
 米国23 EU27 ASEAN11
③アメリカはG2(米中が世界を調整)体制を求めている。
*同時に中国の軍事的脅威に対抗するため日本を活用

(2)日本は対米従属で繁栄してきたのか
①プラザ合意で意図的な円高→日本の輸出産業へ打撃→国際競争力の低下
②1992年「BIS規制」(銀行の自己資本比率に関する規制)
 日本の銀行の海外活動規制が目的
 1990年世界の金融機関ベストテンに日本の銀行7→2009年には三菱UFJが9位だけ
③日米構造協議(1989-1990)
・日本経済破壊作戦
・「ものづくり」への投資を抑制、輸出産業の抑制、630兆円の公共投資を強制
 →その結果、日本の技術力は低下、むだな公共事業で財政破綻
④対日経済支配総仕上げとしてのTPP
・公的医療保険制度の解体
・あらゆる分野に外資参入(病院、学校、保険、公共事業、銃)

(3)日本が進むべき道
①力関係の冷静な分析
・中国に軍事力では対抗できない。
②領土問題の解決
・中国の主張:15世紀から文献に「魚釣島」の記載がある。
 日本の主張:1895年閣議決定で尖閣諸島を日本領に編入
・米国は「尖閣諸島の領有権についてはどちら側にもつかない」
・ポツダム宣言…「諸諸島」の帰属は米英中(ソ連)が決定する
・領土問題を武力紛争にしないために
  領土問題を避けるための取り決めを行う(棚上げ論は有効)
  国際司法裁判所に提訴
  多角的な相互依存関係を構築
  国連原則(非武力)を前面に
③ドイツとフランスに学ぶ
・戦争被害を繰り返さない決意
・石炭、鉄鋼の共同管理→EC、EUへ発展 協力しあうことが両国の利益になる
ドイツ議会外交委員長の言葉
  戦後、我々はフランスとの確執を克服した。その我々からみると、日中関係がどうして改善されないか不思議 だ。独仏には昔から領土問題がある。二回の戦争を戦った。相手の国がいかに非人道的なことを行ったかを指摘し合えばお互いに山のようにある。しかし、我々は二度の戦争を繰り返し、このような犠牲を出す愚行を止める決意をした。憎しみ合いを続ける代わりに、協力し合うことの方が両国民に利益をもたらすことを示した。そして、これまで戦争の原因にもなった石炭・鉄鋼を共同管理するために、1950年欧州石炭鉄鋼共同体をつくった。それが欧州連合に発展した。いまや誰も独仏が戦争することはないと思っている。

④ASEANに学ぶ
・歴史、人種、宗教など多くの面で異なりを持つ国々
・「平和や経済的安寧の育まれるべき理想は域内諸国間の協力の促進によって最もよく達成される」とう共通した信念

⑤東アジア共同体の可能性
<条件>
1)紛争を避けたいという強い思いが存在すること
2)領有権の問題よりも紛争回避が重要であるという認識があること
3)複合的相互依存を進められる分野が多く存在していること
<日中相互依存関係を強化できる分野>
・環境、公害  ・水資源(海水の淡水化)

10.おわりに
・この学習会の中身は、特に後半部分は孫崎享氏の文献によるところが大きい。
・孫崎氏は日本がアジア重視の道を進むことは、アメリカの圧力があって不可能と断定
・孫崎氏は最後にノルマンディの話を例にして「犬死に」でもいいと話を結んでいる。

 ノルマンディへ行け。そして墓標をみろ。多くの戦士は崖をよじ登った。上から機関銃を撃ってくる。兵士は登るだけが精一杯で撃ち返すことすらできない。ノルマンディはその人たちの墓標である。しかし、犬死にとみられる行為の積み重ねの上に、誰かが登り切った。そして勝利を得た。






<参考文献>
孫崎享「不愉快な現実 中国の大国化、米国の戦略転換」
孫崎享「これから世界はどうなるか 米国衰退と日本」
半田滋「集団的自衛権のトリックと安倍改憲」
カレル・ヴァン・ウォルフレン「人物破壊 誰が小沢一郎を殺すのか」
孫崎享「アメリカに潰された政治家たち」
「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書(平成20年6月24日)
「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」議事要旨(首相官邸HP)
松葉真美「集団的自衛権の法的性質とその発達-国際法上の議論」 
松竹伸幸「集団的自衛権の深層」
浅井基文「すっきりわかる集団的自衛権Q&A」
関岡英之「奪われる日本」
関岡英之「拒否できない日本」

2013年10月21日月曜日

小さな神様(石井光太さんの講演概要)


 石井さんは、震災犠牲者とその家族の集まる場所、遺体安置所を取材しました。何かに抗議しなければ気が済まない小学生の娘を流されたシングルマザー、それに対してひたすら謝り続ける市の職員、暗く冷たい空間で検死を続ける医師など、悲しみすらない絶望の空間に身を置く中、一点の温かいものをみつけました。
 それは毎朝五時半に安置所に来て、全部の遺体に声をかける葬儀社で働いた経験のある老人のことです。その老人は、死体ではなく遺体という気持ちで、遺体に対して尊厳が与えられなければ、遺族は二度とこの町で生きていけなくなる、生きていこうという気持ちが失われると、遺体と遺族に声をかけ続けていました。
 赤ちゃんを亡くし、毎日赤ちゃんの遺体のもとを訪れては謝り、泣き続けていた両親の前でこう語りかけます。「ぼうやのこと必死に助けたの知っているよね。天国に行ったらお父さん、お母さんのこと思ってくれるよね」
 それをきいた両親の安堵、遺体に語りかける言葉のぬくもり、この温かさを書きたくて「遺体」を書いたのだと石井さんは言います。
 そして、幽霊をみたという話が広がったことについて、お化けでもいいから会いたい、会いに来たとすがりつきたい遺族の気持ちに言及し、人間は弱いもの、すがりつかなければ生きていけないものだと語りました。
 ある遺族が「おなかまさん」(巫女)のもとを訪れ、「なんでみつからないの?」と尋ねます。「おまえは強い娘だ。僕はみんなが見つかった後で出てくるよ。悲しい思いをしている人たちの力になってくれ」と巫女はこたえたそうです。
 石井さんは、こうした宗教では支えきれない宗教の名が付かないものを「小さな神様」と呼び、この大切さを指摘します。合理的根拠がなくても、100%肯定できなくても「そうかもしれないね」という言葉があれば何とか生きていける人間もいる、小さな神様を肯定する意義について、世界各地の貧困現場を訪れた経験も紹介しながら話されました。
 そして、家族以外では医療従事者が患者の一番近くにいること、その医療従事者が「小さな神様」を大切にする気持ちを持って接することの意義を静かに語りました。そうした小さな神様によって救われる、それができる世の中が真に豊かな世の中ではないかと結びました。

2013年6月25日火曜日

「生活保護改正法」の中止を求める議会請願意見陳述

生活保護問題で山形市議会に請願しました。山形市では今年から請願趣旨を説明する機会を与えてくれることになりましたので、早速説明に行きました。その原稿をアップします。

守岡等

  現行の生活保護法は、生活保護申請は口頭でも可能であるとされており、必要な書類の提出を義務づけていません。改正案は、申請を書面とした上で、資産及び収入、家賃など、保護の要否判定に必要な書類の提出を申請の要件化しています。
 これまでいくつかの福祉事務所で、申請意思を表明しても申請書を渡さず、申請時に必要のない書類の提出を求めて申請権を侵害する「水際作戦」が行われてきましたが、今回の改正はこれを合法化・法制化するものです。
  こうした批判を前に、衆議院では書類を提出できない「特別な事情」がある人は例外扱いする修正が行われましたが、修正したことで書類提出が大原則で書類提出がない場合の申請受理はごく限られたケースにとどめることにお墨付きを与えたのと同然です。政府は「改訂でも運用は変わらない」といっていますが、それならば法改正の必要性はないのではないでしょうか。
 さらに現行法は、扶養義務者による扶養を保護の要件とはしていませんが、改正案は扶養義務者に収入や資産の報告を求めたり、扶養できない場合の説明責任を課すものになっています。
 これらの法改正によって、今以上に要保護者の申請意思を萎縮させることにつながり、貧困を深刻にし、餓死や孤独死を誘発するものです。
  今年の5月に国連の社会権規約委員会が日本政府に対し、生活保護の申請手続きを簡素化し、申請者が尊厳を持って扱われることなどを求める勧告を出したのは、日本の「水際作戦」の人権侵害ぶりがあまりにも明白だったからです。
 国連の社会権規約を批准している日本政府は、勧告に基づき事態を改善する義務がありますが、今回の法改正は勧告に真っ向から逆らうものです。
 いま、山形県内の生活保護率は0.62%(平成24年10月)と東北最低、全国でも下位クラスにあります。村山地区は0.4%台となっています。生活保護が必要な方たちのうち実際に生活保護を受給しているのは20~30%と言われています。全国で400万人以上が生活保護基準以下の生活を強いられています。生活保護行政でいま必要なことは、生活保護申請しやすい環境を整備し、補足率を引き上げることではないでしょうか。
 県社保協に所属する病院でも、がんに冒された患者さんが、なかなか生活保護申請を受理されず、最後の最後になって病院に担ぎ込まれ、MSWや議員の援助で生活保護申請にこぎつけたものの、残念ながら亡くなるという事件がありました。
 また、勇気を振り絞って市役所に相談に行っても、家族や親族の状況を根掘り葉掘り聞かれて、二度と保護申請する気にはならないという声も多数寄せられています。
 全国では年間70人程度が餓死しているという事実が人口動態統計で示されています。
 
 こうした悲劇を繰り返さないためにも、市民の健康で文化的な最低限度の生活を守るためにも、生活保護法改正の中止を求める意見書を提出してくださるよう、お願いします。
 以上で意見陳述を終わります。

2013年6月5日水曜日

山形県内で二度と介護悲劇を生まないために

            「山形県内で二度と介護悲劇を生まないために」
                                             
1.県内の介護事件の概要(2006年~)
(1)件数18(殺人9、心中7、その他2)
(2)地域
鶴岡市6(33.3%) 酒田市2(11.1%) 山形市2 朝日町2  東根・尾花沢・上山・遊佐・真室川1
(3)加害者(心中の場合は首謀者)
   男15(83.3%) 平均年齢59.7歳 独身9(50%)  息子11(61.1%)夫4(22.2%)
(4)被害者
   女16(88.9%) 平均年齢80.5歳 独り身9(50%)
(5)事件のキーワード
①老老介護6(33.3%)  ②認知症8(44.4%)  ③経済苦5(27.8%)

2.考察
①男性(息子・夫)の介護疲れによる母親・妻への加害
②特に50代の独身男性で十分な収入がない場合
③認知症対応は在宅では困難
④介護施設の不足
⑤鶴岡市など庄内地区で50%を占める
・孤立死、孤独死の数も鶴岡・酒田は高い
・新市街(櫛引、温海、平田)で発生→市町村合併で行政単位の拡大による管理の困難さが原因(?)

【2008年4月 山形市岩波の事例の背景】
①病院から出される…平均在院日数のしばり
 ・A病院(292床)看護基準7:1 平均在院日数は19日以内
 ・入院基本料一日1人15,550円が5,750円に下がる→概ね2週間で「転院のお願い」
②簡単に特養に入所できない
 ・当時の県内の特養入所待機者数は1万人以上(重複を除いても7千人)約2年待ち
 ・入所判定基準:家族の介護者がいると判定基準が下がる
 ・軽費老人ホーム:認知症の方は入れない
 ・療養型病床:山形県は全国一少ない病床数
③在宅介護の困難
 ・独身、失業中でこの春から牧場勤務が決まっていたが、母親の介護を考え断った。
 ・収入は母親の年金のみ。居宅介護サービスの利用料負担も厳しい状況だった。
④後期高齢者医療制度の開始でさらなる負担増になることが心労に
 ・実は激変緩和措置の対象だったが、十分な説明がなく不安を募らせた。
⑤家族関係
 ・息子さんは心優しい人だった。母親が「自分がいたのではおまえの負担になる」と口にしていた(近所の人)

【2009年4月 上山市の事例の背景】
①家族関係
 ・60年間周囲も認める仲のよい夫婦だった。
 ・夫が自宅で一人で妻を介護していたが、床ずれも作らない行き届いたものだった。
 ・夫も84歳と高齢で、妻より先に自分が病死するのではと不安を抱くようになった。
 ・長男夫婦、孫と同居していたが、家族にも病気、仕事の事情があった。
②経済状況
 ・介護費用、医療費は夫婦の年金から捻出していたが、年金だけでは足りず、少ない貯金を取り崩しながら生活していた。
  ・施設に入れるには費用が足りない。
 ・4月から介護料金が上がると知ったことを契機に、心中を決意した。
③介護の困難性
 ・寝たきり、認知症の妻を一人で介護していた(福祉施設のデイサービスを利用していた)。
 ・「証人の公判供述からもうかがわれるとおり、いわゆる老老介護や施設が十分にあるとまでは言い難  いところもあるから、被告人が経済的な不安から行政に助けを求める気持ちにならなかったことも理  解できる」(判決文)

【2012年8月 鶴岡市の事例の背景】
①家族関係
 ・2010年に父親が亡くなり、妻と別居して実家でアルコール依存症の母親と同居を開始した。
 ・母親は両足が悪く、移動できないストレス解消と痛みを和らげるために飲酒が習慣化した。
②事件までの流れ
 ・2011年春頃、酔った母親と口論になり、暴力をふるって以来、酔った姿を見るといらだつようになった。
 ・酔って倒れた母親の顔に水をかけたが起きないことに腹を立て、コップで殴るなどした。

3.高齢者指標から
(1)ひとり暮らし高齢者の割合(H24.4.1資料1)
・前年より2018人増加し29755人となっている。
・庄内地区が10.0%で最も高い
 (1小国 2酒田 3長井 4米沢・上山・遊佐 7南陽 8山形 9鶴岡 10西川)
・孤立死・孤独死も鶴岡・酒田が突出している
■「山形県における孤独死の実態」(平成18年 大澤資樹 山形大学医学部教授)
①山形県内で発生した孤独死の集計
年   平成12   平成13   平成14   平成15   平成16   5年間計
件数    157      149        167       182        203      857
②年齢・性別
・平均年齢は65.6歳 65歳以上は55.8%
・男性64.8% 女性35.2%
③死因
・病死79.1% 自殺15.8% その他
④地域差
・鶴岡市と酒田市が高い
・高齢者の一人暮らしが高い地域

(2)寝たきり高齢者の割合(H24.4.1資料2)
・前年より3451人増加し11320人(65歳以上人口の3.5%)となっている。
・村山3.9 庄内3.3
 (1大石田 2山形 3中山 4飯豊 5東根・白鷹・河北 8新庄 9鶴岡 10山辺)

(3)要介護認定状況(H23年12月末資料3)
・65歳以上のうち要介護・要支援の認定を受けたのは18.0%で前年より0.6ポイント増
・庄内地区が19.8で最も高い
 (1遊佐 2鶴岡 3大石田 4鮭川 5酒田 6高畠 7飯豊 8大江・小国 10上山)

(4)地域包括支援センター
・保健福祉圏域別では村山25 最上8 置賜10 庄内16 計59


4.保健福祉圏域別の高齢者を取り巻く状況(平成22年長寿社会課)
庄内地区は一人暮らし高齢者の割合が高く、在宅サービス利用者が多い。

5.自殺者数(保健所別)
 年   村山   最上   置賜   庄内   県合計
平成23    91       35       49       89       264
平成22   119       28       71       89       307
平成21   131       33       76       81       321
6.完全失業率(平成22年度山形県統計協会)
*平成22年10月1日現在の山形県の完全失業者数は34,786人(5年前より3,867人増加)
①4%未満(鮭川、飯豊)
②4~5%(三川、尾花沢、河北、朝日、白鷹、長井、高畠、川西、小国)
③5~6%(遊佐、酒田、庄内、鶴岡、西川、大江、寒河江、最上、東根、上山)
④6%以上(真室川、金山、新庄、戸沢、大蔵、舟形、村山、天童、山形、中山、山辺、南陽、米沢)

7.生活保護(平成23年11月現在 山形県)
         村山地域    最上地域    置賜地域    庄内地域    県合計
保護人員数     2593            497         1795          2340       7225
保護率(%)     0.46            0.60         0.80          0.80       0.62

cf.平成24年10月の東北各県の保護率(厚労省)
 山形0.62 青森2.22 岩手1.11 宮城1.16 秋田1.46 福島0.87 全国1.68 東北1.21

8.介護保険施設退所者調査(2006年山形県保険医協会)
・介護保険制度の改定により、2005年10月から介護保険利用者の食費・居住費が保険外負担となったため、負担増に耐えかねて「退所者や利用制限が出ている」との声をうけ、2005年10月から12月までの3ヶ月間の介護事業者に対するアンケート調査を実施。
・わずか3ヶ月で20人の退所者が確認された。
・負担が大変でサービス利用を制限した、利用料滞納、退所を検討中、入所を断念した、個室から大部屋へ移動するため空きを待っている、という回答も寄せられた。

9.山形県「県内の介護保険施設における制度改正後の状況調査」(2006年6月)
・2005年10月から2006年3月までに、経済的理由による退所者が57名(聡退所者比1.6%)いること が明らかになった。
・経済的理由による退所者の退所先は33人(57.8%)が在宅だった。

10.まとめ(求められる対策)
①男性介護(息子・夫)や地域で孤立している介護者への支援が必要である。
・民生委員や地域包括支援センターできめ細かい状況把握に努め、親身な相談や利用できるサービスを紹介していくことが必要である。
②認知症の在宅介護はいまの制度では限界的な状況である。手厚いサービスの提供など制度の大幅な改善や行政の支援が必要である。
③経済的な支援が必要である。特に50代の独身男性や年金暮らしの方が介護している場合に深刻な状況にある。息子が介護している場合は就労も困難で、要介護者の年金が主な収入になっている。低所得者 の介護保険料・利用料の減免制度の拡充で、低所得者でも施設サービスが利用できるようにする必要がある。さらに、利用しやすい生活保護制度の改善が求められる。
④安心して介護ができる介護サービス供給体制を拡充する必要がある。特に医療・在院日数のしばりなどにより、医療機関から在宅に回される事例があるが、特養・老健・療養型施設の拡充で、受け皿を増や す必要がある。
⑤この間の介護悲劇が庄内地区で50%を占めることから、庄内地区の分析・対策を強化する必要がある。孤立死・孤独死の数も鶴岡市・酒田市が突出していることから、分析・対応を進める必要がある。合併 後の地域(櫛引、温海、平田)で事例が発生していることから、行政単位の拡大による管理の困難さが影響していることも考えられ、きめ細かい対応が必要である。
⑥健康長寿政策を進めるために
 1万人以上いる寝たきり老人を減らし、健康長寿の山形県をつくるために長野県の分析を進める必要がある。その指標として次の事項があげられる。
1)保健予防活動の強化(がんや生活習慣病死亡率の低下、平均寿命の伸張、医療費の低下)
2)生活習慣・食生活の改善(野菜の摂取量増、食塩摂取量減、喫煙者・肥満率の減、運動習慣)
3)65歳以上の就業率全国一
4)高齢者の社会参加の機会
5)小さい行政単位(1万人が基本)
6)行政・病院・住民三者の連携
                                                                                          以上

2013年5月14日火曜日

「長野県長寿の秘密」(白澤卓二)メモ

白澤卓二先生(順天堂大学)が「長寿県長野の秘密」(しなのき書房)というすばらしい本を出しています。そのメモを記します。独自に付け加えたデータもあります。

■統計データ
*全国の年齢調整死亡率(人口10万対)平成22
男性の低位:長野477.3  滋賀496.4  福井499.9  熊本508.2  京都512.2
男性の高位: 青森662.4  秋田613.5  岩手590.1  和歌山576.9  大阪576.7
女性の低位: 長野248.8  新潟254.6  島根254.7  福井255.2  大分255.6
女性の高位: 青森304.3  栃木295.7  和歌山294.5  大阪289.9  茨城289.1
山形男性530.7(13位)  全国平均544.3
山形女性269.2(19位)  全国平均274.9
*平均寿命(平成22)
長野男性80.88歳(全国一位) 長野女性87.18歳(全国一位)
山形男性  79.97歳(9位)      山形女性86.28歳(28位)

■「長野モデル」
*疫学的に三つの特徴 1)平均寿命が日本一 2)就業率が非常に高い 3)高齢者医療費が低い
*がんや生活習慣病の死亡率が低い
  予防に力を入れた
  病院や診療所数は全国平均以下

■テロメアDNAの長さが長い
・テロメア:老化が進むと短くなる染色体の一部
・メカニズムの解明はまだ

■長野県と青森県との違い(生活習慣の違い)
・野菜の摂取量 長野男女とも1位、青森男性31位女性29位
・食塩消費量 青森男性2位女性5位
・喫煙者 青森男性1位(長野男性44位)
・飲酒の割合 青森全国一位
・運動不足の肥満率 長野40位 青森9位

■自然とともに生きる環境
・前栽畑(家の前の畑)が多い  運動習慣
・高地と傾斜地が多い
・寒暖差 ワイン産地は長寿地域
・身近に温泉のある環境 ストレス軽減

■高齢者の働ける環境
・長野県の65歳以上就業率は26.7%で全国一位(就業率の低い沖縄県の2倍)
・小規模な土地をいかした果樹栽培
・ボランティア行動者率33.1%(全国6位) 

■在宅死亡の割合が高い
・持ち家率高い、高齢者単身比率・離婚率・生活保護世帯数が低い
・在宅死亡の割合が16.6%(全国平均13%)全国3位
・行政の積極的な在宅医療と家族条件がマッチ

■コミュニティ、生きがいづくり
・公民館の数は1236で全国1位 第2位は山形県の524
・歩いて行けるところに話し合ったり学習する場がある

■食生活
・腹七部目
・野菜や果物の摂取
・ポリフェノール リンゴとブドウ
・発酵食品 塩麹、味噌、醤油
・寒天

■予防医療
・地域医療と保健活動
  浅間総合病院、佐久総合病院、諏訪中央病院
・自主的な組織 保健補導員
・減塩運動

■たゆみない行政の取り組み
・調査から実践、そして対策へ
・行政単位は1万人が基本(市町村合併を拒否)

■行政・病院・住民三者の対等な関係

2013年4月17日水曜日

「TPPと医療」学習レジュメ2013.7.3更新

TPP問題で、あちらこちらで学習講演を行っています。そのレジュメをアップしますので、ご活用ください。

守岡等

「TPPと医療問題」

[レジュメ]                                               
1.TPPとは何か、貿易問題になぜ医療が関係するのか
①TPPはTrans-Pacific Strategic Economy Partnership Agreementの略
 環太平洋戦略的経済連携協定 TPSPと略すべき→日本のアメリカ化が目的

②安部首相は「国民皆保険制度は守る」と言っているが…
 TPPで協議している24分野に「医療」の項目はない。
 アメリカも「公的医療保険制度」の廃止は要求しないだろう
 しかし
【知的財産権分野】
 薬価や医療技術
【金融サービス分野】
 民間医療保険の拡大
【投資分野】
 株式会社の医療参入
 医療とは関係ないようにみえる各分野の議論で公的医療保険制度の崩壊の危険


2.TPP以前の動き
(1)アメリカからの医療の市場化要求
①2001年10月(小泉内閣)「年次改革要望書」
 ・日本の医療に市場原理導入を要求
②2010年3月(鳩山内閣)「外国貿易障壁報告書」
 ・日本の医療サービス市場を外国企業へ開放することを要求
③2011年2月(菅内閣)「日米経済調和対話」
 ・新薬創出加算の恒久化、加算率の上限廃止、市場拡大算定ルールを廃止、外国平均価格調整ルートの改定
④2011年9月(野田内閣)米通商代表部「医薬品へのアクセス拡大のためのTPP貿易目標」
 ・不要な規制障壁の最小化などを要求


(2)日本政府の医療の営利化
①2010年6月「新成長戦略」
 ・医療、介護、健康関連産業は日本の成長牽引産業
②2011年1月「医療滞在ビザ」創設
 ・医療ツーリズム
③2011年4月「規制・制度改革に係る方針」
 ・医療法人と他の法人の役職員の兼務を検討開始
④2011年6月「総合特区法」
 ・特別養護老人ホームに営利企業が参入
⑤2011年7月「規制・制度改革に関する第二次報告書」
 ・公的医療保険の適用範囲の再定義
 ・国際医療交流
⑥2012年8月「社会保障制度改革推進法」
 ・社会保障制度は国の責任から家族相互、国民相互の助け合いの仕組みに
 ・保険主義の徹底と公費負担の削減
 ・給付内容の削減


3.TPPで日本の医療はどうなる
(1)薬価が跳ね上がる
   医薬品の特許をたくさん持つアメリカの製薬企業
               ↓
   TPP交渉で知的財産所有権の保護強化を主張
      例)薬の特許権を延長し、新薬は保険の対象外にする(その間は安いジェネリックは作れない)   新薬の承認過程を短縮し、どんどん日本に入るようにする           
                  ↓
   高い新薬は公的保険ではカバーしきれなくなる(混合診療の解禁)


(2)混合診療と患者負担
①現在の仕組み
 現在は保険のきく診療と保険外の診療を受ける(混合診療)と、全額自己負担となる。患者負担(全額自費)
②混合診療が全面解禁されると
 先進医療や新薬はその部分の全額自費で受けられるようになる。
 ただし、全額自費部分を支払えるのは高所得者のみ 

③全面解禁されて時間が経つと
 新しい治療や医薬品は保険外になり、公的医療保険の給付範囲は時間と共に縮小する(その方が国の支出を抑えられる)

              
  ※将来、公的医療保険で受けられる医療は最小限に

(3)民間医療保険の拡大
・保険の効かない高額な先進医療や新薬の負担を軽減するために民間医療保険の参入が進む
 外資系保険会社が莫大な広告費を払っているのはこの日のため
・民間保険に加入できない低所得者、病気持ちの人たちへの医療差別


<民間保険主体のアメリカの医療>
(1)日米医療制度の比較
①WHO(世界保健機関)による評価
                        日 本   米 国
 ◆保健医療制度の総合評価       1位   15位
 ◆国民一人あたり保健医療支出      13位     1位

②医療の質  日 本 米 国
 ◆平均余命上昇率(1960-2000年    13.4%  6.9%
 ◆乳幼児死亡率(出産千人当たり)    3.2人   6.9人

③医療のコスト  日 本 米 国
 ◆国民一人あたり医療費支出    310,874円 591,730円
 ◆総医療費支出(対GDP比)        7.8%  13.9%
④なぜこのような結果になるのか     日 本   米 国

 ◆公的医療保険加入者           100%     25%
◆民間医療保険加入者     無視し得る範囲     70%
◆無保険者                            0%     15% 
(2)実際のアメリカ医療の実情
子宮筋腫の治療費 日帰り外来手術 100万円以上   虫歯の治療 2本で1200ドル 13万円


「ニューヨークに赴任して2年、アメリカ生活で感じた不思議?をご紹介したいと思います。アメリカでまず驚かされたのは医療費の高さだ。ちょうど当地に赴任して1年経過したころ、突然、親知らずが痛くなった。歯医者に行ったところ、左上下の親知らずが虫歯と判明、治療より抜いたほうがよいと言うので、抜いてもらうことになった。1本600ドル、合わせて1,200ドルなり。このときはまだ、会社で加入している保険で費用のほとんどはカバーできるとの見込みがあったが、このほかに小さな虫歯が数本あると言われ、心配になって見積もりを依頼した。(医者はかなり渋っていたが。)この見積もり額はなんと4,000ドル。
 こんなに高いと保険を使ってもかなりの足(約3,000ドル)が出てしまう。ダメ元でディスカウントをお願いしたところ、なんと保険でカバーできなかった分は請求しないという約束取りつけに成功。ラッキー!だが最終的に保険会社から思ったほど支払ってもらえず、材料費だけはと泣きつかれ、300ドルを支払った。過剰請求はこちらの常識とはいえ、医療費が値切れるとは・・・・。
 

出産費用 14,000ドル150万円
「今年の10月に次男が誕生した。そのときの出産、入院費用の合計はなんと1万4,000ドル。ほとんどが保険でカバーされているので問題ないが、日本と違い、社会保険制度が発達していないアメリカでは、個人、会社で保険に入れない人は子供も産めない。また、このとき、費用の請求方法にも驚かされた。なんと4枚もの請求書が届いたのだ。アメリカでは医療が専門化されているとは聞いていたが、医療費の請求方法もこれほど細分化されている。もう少し患者(客)に分かりやすい方法を取ってほしいものだ。 」

[出産費用請求内訳]
 産婦人科医: 7,000ドル 麻酔科医 : 2,000ドル 小児科医 : 2,000ドル
 入院費  : 3,000ドル 計    : 14,000ドル


(4)営利企業の医療参入
①日本では医療法で営利企業の病院経営参入を禁じている。(例外として企業立の株式会社病院)
 保険診療の費用は公定価格(診療報酬)なので、営利目的の企業には魅力がない。
②営利企業の病院は高額の自由診療を目指す。そのために混合診療の全面解禁も要求。
③高額自由診療の病院が増えると、国は「自由診療でもうければいい」と診療報酬を引き上げない。高所得者のいない地方の公的医療保険病院は立ちゆかない。
④近くに高額診療の病院があっても、お金がなければ受診できない。
⑤営利企業(株式会社)は利潤追求が第一目的。安全性軽視、コスト削減、患者選定が進む。採算がとれなければすぐ撤退。

(5)恐ろしいISD条項  Investor(投資家)State(国家)Dispute(紛争)Settlement(解決)
①投資家と受け入れ国の間で紛争が起こったとき、国際投資紛争解決センター(世界銀行の一角)で処理。
②国内法(憲法)よりも条約・国際法が優位
③最悪の場合、日本の公的医療保険制度が参入障壁であるとして訴えられ、健康保険法の改正を求められることになる。

【NAFTAアメリカ・カナダ・メキシコ自由貿易協定】
・「カナダの郵便局は国家の補助をもらうから宏平ではない」とアメリカの民間会社が訴え、カナダは莫大な賠償金を払うことになった。
・メキシコではアメリカの会社がゴミ処理施設をつくろうとしたところ、住民が環境病を起こしたこ とで地方自治体が建設許可を却下。ISDに訴えられメキシコ政府は莫大な賠償金支払い。


【ラチェット規定】
  いったん開放した部門を再び規制する「後戻り」はできない


4.米韓FTAで韓国の医療はどうなったか
①「認可-特許連携制度」条項
・特許権を持った製薬企業がジェネリック製薬企業に「特許侵害」を申し立てれば販売停止できる。(国民は安いジェネリック薬品は買えなくなる)
②「独立的検討機構」の設置条項
・薬価の決定や保険適用の可否において、政府の権限が弱まる。
③「営利病院の許諾を永続化する」条項
・営利病院では保険診療の6-7倍の支払い請求がされている。
・ラチェット規定があるため、韓国政府は営利病院を廃止できない。
・民間医療保険に対する規制も不可能に。

<カナダ、オーストラリアでは禁煙政策まで口だし>
・カナダやオーストラリアでは政府が進めていた禁煙政策に対し、アメリカの煙草会社がISDに提訴。


5.TPPで各分野はこうなる
①関税ゼロでアメリカ・オーストラリアの農産物がなだれ込み、日本農業は壊滅。食糧自給率は40% から13%に。350万人が失業。
②食の安全が脅かされる。食品添加物、ポストハーベスト、残留農薬、BSE、遺伝子組み換え作物な どの基準緩和を求めてくる。(遺伝子組み換えで25倍の重量の鮭も)
③金融・保険の自由化で簡保・郵貯が民間化。国債のほとんどを担うこれらの金融資産が外資に流れ るとどうなるか。
④学校も外資の株式会社に。英語教育、貴族主義の徹底。
⑤労働条件の悪化。従業員のリストラ、派遣化で人件費抑制し、株価を引き上げ企業買収・転売によ る売却益を得るようになる。
⑥労働者移住の自由化。東南アジアの安い労働力の移入→国内賃金水準の引き下げ
⑦日本も銃社会に。アメリカから輸入。
⑧国・地方の公共事業は加盟国すべてに入札を公示。アメリカの建設会社や人件費の安い東南アジア の進出の可能性。


6.問題だらけのTPPになぜ加盟するのか
①日米安全保障条約第2条
 「両国間の経済協力を推進する」
 これを根拠にアメリカは日本経済に介入、非関税施策の解除
②日本の財界
・日本経団連 TPP参加を提言
・すでに多国籍企業化した企業の利益を守るため(海外で生産したものを世界で売るためには関税障 壁がない方がいい)

7.TPP参加を阻止するために
①日米安全保障条約を廃棄する(一方の国の通告で可能)
②条約・国際協定は国会の批准が必要(憲法73条)
・国会がノーといえばTPP参加は避けられる
・昨年の総選挙前の毎日新聞候補者アンケート TPP反対244 賛成113 無回答53 非該当70
 公約守れの運動を盛り上げる
・非常に重要な参院選
 憲法守れの運動と連動した取り組みが必要

                                                                                                                                                以上

[原稿]
  安部首相は「国民皆保険制度は守る」と言ってますし、アメリカも「公的医療保険制度」の廃止を直接には要求してこないと思います。しかし、TPPの項目には知的財産分野があり、ここで薬価や医療技術が取り上げられ、金融サービス分野で民間医療保険の拡大が、投資分野で株式会社の医療参入が取り上げられることは必至です。医療とは関係ないようにみえる各分野の議論で、日本の公的医療保険制度解体の危険性が生まれるのです。
 


TPP参入によって日本の医療がどう変わるか
①医薬品の価格が跳ね上がる
 アメリカの製薬企業にはたくさんの特許をもつ医薬品があります。TPP交渉でアメリカは知的財産所有権の保護強化を主張し、薬の特許権を延長し、安いジェネリック品への移行を妨げるでしょう。現在は2年ごとに薬価改定が行われ、段階的に引き下げられていますが、この制度の廃止を求めてくると思われます。
 薬価審議会等にアメリカ代表を参加させ、加算率上限の撤廃などで際限なく新薬の価格が引き上げられる危険性があります。
 高い新薬は公的保険ではカバーしきれなくなり、混合診療の解禁へつながります。
②混合診療の全面解禁
 国の支出を抑えるため、新しい治療や医薬品は保険外となり、公的医療保険の給付範囲が縮小します。新しい治療や新薬は全額自己負担となり、高所得者のみが恩恵を受けるという医療差別が発生します。
すでに規制改革会議では「再生医療」の保険外併用療養化を検討しています。
③営利企業(株式会社)の医療参入
 高額の自由診療を求めて営利企業の参入が進みます。すでに米韓FTAで韓国内に営利病院が建設されています。当然、お金のない人は受診できません。
 高額自由診療の病院が増えると、国は「自由診療でもうければいい」と診療報酬を引き上げなくなり、高所得者の少ない地方の公的医療保険病院は立ちゆかなくなります。
 また、営利企業は利潤追求が第一目的ですから、安全性軽視、コスト削減、患者選定が進みます。採算がとれない地域からは撤退し、医療崩壊が加速します。
④民間医療保険市場の増加
 公的医療保険制度に代わって、民間医療保険の市場が増大します。介護保険の軽度者外しと自己負担増もその流れを助長します。アメリカの保険会社が手ぐすね引いて待っています。
 民間保険会社は郵便局の保険事業部門、共済制度の市場開放も要求してくるでしょう。こうして郵貯・簡保など国民の財産が外資に流れ、現在、郵貯・簡保の比重が高い日本国債が外資に占められる事態も予想されます。


恐ろしいISD条項
 このように日本の公的医療保険制度が危機的状況に陥り、公的医療保険制度を守ろうとする動きも出てきますが、TPPにはISD条項というものがあり、投資家が受け入れ国を訴える制度があり、アメリカの保険会社が日本の公的医療保険制度を参入障壁としてとらえ、国際投資紛争解決センター(世界銀行の一角)に訴えることができます。
 これまでにも「カナダの郵便局は国家補助をもらっているから公平でない」とアメリカの民間会社が訴え、カナダ政府が莫大な賠償金を払うことになったり、メキシコではアメリカの会社がゴミ処理施設を作ろうとした際に地方自治体が建設許可を与えなかったことを訴え、メキシコ政府に賠償金を払わせたなどの事例が起きています。
 当然、国内法よりも国際法・条約が優先されることになります。


ラチェット条項
 また、TPPにはラチェット条項というものがあります。ラチェットというのは、逆回転をさせない歯車のようなものですが、いったん開放した部門を再び規制する逆回転はできないという条項です。すでに例外なしの合意を決めているTPPは後戻りができない、日本がいったん参入を決めたら取り返しがつかないのがTPPです。

 やめるのは「今でしょ!」
 このようにTPP参入によって、日本の公的医療保険制度は根底から破壊されてしまいます。マイケル・ムーア監督の映画「シッコ」をご覧になった方も多いと思いますが、この映画は公的医療保険制度のないアメリカ医療の真実を描いています。映画は傷ついた自分の足を自分で針と糸で縫い合わせるシーンで始まって、医療費を払えなくなった高齢者が病院から追い出されて公園の前で捨て去られるというシーンで終わっています。日本の医療をこうしたアメリカ型のものにしてしまっていいのでしょうか。アメリカの保険会社の利益とそれに追随する日本の財界のために、日本人のいのちが犠牲になってもいいのでしょうか。私はかけがえのない国民のいのち、日本の公的医療保険制度を守るためにも、TPPには参入すべきではないと思います。

2013年4月8日月曜日

山形県内の介護殺人・心中事件(2013.5.14更新)

山形県内の介護殺人・心中事件(2006年~ )

【2006年9月 東根市】
19日午後5時ごろ、山形県東根市東根、無職○○さん(89)方で、○○さんと長女○○さん(60)、○○さんの妹○○さん(88)の3人が死亡しているのを、近くに住む○○さんの親せきの男性が見つけ、110番した。
村山署の調べでは、○○さんと○○さんは1階寝室の2つのベッドでそれぞれ、布団が掛かった状態で死亡していた。○○さんは玄関近くの茶の間で首をつっていた。
3人に目立った外傷がなく外部から侵入した形跡もないことなどから、村山署は3人が心中した可能性があるとみて、司法解剖して死因を調べる。遺書はなかった。
○○さんは○○さん、○○さんとの3人家族。近所の人などによると、○○さんと○○さんは認知症が進み寝たきりで、○○さんが身の回りの世話をしていたという。
近くに住む女性(54)は「○○さんが2人の介護をしていたが、体調を崩すなどして大変そうだった」と、驚いた様子で話した。
○○さんと○○さんは認知症などで要介護認定を受け、○○さんは最も重い要介護5、○○さんは要介護3だった。2人を介護していた○○さんも足などの具合が悪く要支援2だったという。近所の人の話では、○○さんたちは、5~6年前に山形市から引っ越してきた。近くの女性は「ここ数カ月はストレスのためか、○○さんも体調を崩し、入退院を繰り返していたようだ」と話した。【毎日新聞】 2006年9月19日

【2008年4月 山形市岩波】
◆後期高齢者医療制度で初の犠牲者が出た
後期高齢者制度が4月15日より実施されたが、早くもこの制度の犠牲者と思われる痛ましい事件が、山形市の岩波地区で発生した。
地元の山形新聞や河北新報(本社宮城県仙台市)の記事で、事件の概略を読むと次の通りである。
さる08年4月20日、午後2時40分頃、山形市岩波地区の、無職Nさん(58)方で、Nさんの弟が、自宅南側の物置小屋でNさんが首つり自殺をしているのを発見。自宅は施錠されており、110番通報で、駆け付けた山形署員は、自宅寝室にてNさんの母Kさん(87)の絞殺遺体を発見した。こたつの上に「生きるのが嫌になった」などと書かれた遺書(走り書き)が見つかったことなどから、同署はNさんが母親のKさんを殺害した後、自殺した無理心中事件の可能性が高いとして調べている。
家庭の状況は、数年前、父親が亡くなった後、母のKさんは次男のNさんと二人暮らしをしていた。Kさんは、高齢のためか、脚や腰が悪く、昨年9月に入院。事件の起こる5日前に退院していた。近頃では、母親に認知症の症状も出ていた。
Nさんは、数年前から、母親の介護のために、近くにある蔵王山中の牧場で臨時職員をしながら母親の看病を続けていた。しかし冬場には、豪雪地帯で収入の道がなく、母親の僅かな年金を生活費に回して、入院費用などをやっとのことで捻出していたと推測される。近所では、Nさんは、母親孝行の息子として評判だった。それだけに穏やかな人柄Nさんが、母親を殺害するという事件を引き起こしたことに地元住民もショックを受けているようだ。
 ◆低所得の高齢者に血も涙もない新高齢者医療制度
事件の起きた岩波地区は、JR山形駅から6キロほど離れた山間地だ。東南方向には、山形・宮城両県にまたがる霊峰蔵王山(1841)が聳える風光明媚なところである。しかしこの地域にも高齢化の波は、容赦なく押し寄せている。お年寄りは、僅かな年金で生活を支えながら、何とか周囲の支えによって、高くなる一方の医療費を払ってきた。どんどん年金の支給額も下げられて来た。そこに今度の「後期高齢者医療制度」が実施され、結局Nさん親子のような低所得の家庭が、親子心中という悲しい決断をせざるを得ない状況にまで追い込まれた形だ。
近所の人の話では、Nさんは、「(新医療制度で)母親の年金から保険料が引かれると生活が苦しくなる」(河北新報21日朝刊)と語っていた。また、近所の民生委員には、「(新制度で)保険料が上がったし、再入院するには、医療費も上がり、大変だ」と語り、暗に再入院の費用の捻出が出来ずに苦しんでいる様子だったという。民生委員は、21日にNさんと共に「新しい医療制度で入院費がどうなるか、山形市内の病院に話を聞きに行く約束をしていた。」(朝日新聞21日朝刊)

【2008年8月 鶴岡市】
08年8月に自宅で認知症の妻を絞殺したとして、殺人罪に問われた、鶴岡市松根、元旧櫛引町議、S被告(77)の初公判が6日、山形地裁(伊東顕裁判長)で開かれた。S被告は「殺した覚えはない」と殺意を否認。弁護側も「殺害する意思も動機もなく、首を絞めたこともない。不幸な事故」と無罪を主張した。
争点は、(1)殺意を持ち首を絞めたか(2)責任能力が完全にあるか--の2点。検察側は冒頭陳述で「認知症を患っていた妻Mさん(当時72歳)が、薬を飲まなかったことに腹を立てて首を絞めた」などと主張。死因は窒息死で「首を3分以上絞めた」と述べ、責任能力も問題ないとした。
一方、弁護側は「ベッドから離れた妻を戻そうと引き上げる際、体を押したり引いたりして首に手がかかった可能性がある」としたが、死因は「妻がベッドから落ちた際にどこかに頭をぶつけたことなどの複合的な要素が作用した可能性がある」と、別の鑑定医の意見書を元に主張。責任能力についても、心神耗弱を主張した。
起訴状によると、S被告は08年8月30日午後10時ごろから31日午前8時50分ごろまでの間、自宅の1階寝室で殺意を持ち妻の首を絞め、窒息死させたとされる。毎日新聞

【2009年2月 尾花沢市】
尾花沢市寺内の農業、Hさん(53)宅で6日、Hさんが母Rさん(74)と無理心中を図ったとみられる事件。Hさんは、寝たきりのRさんを病院から連れ戻し、昨春から自宅で世話をしていた。親類の女性(70)いわく「親孝行な息子」に何があったのか。【浅妻博之、米川康、細田元彰】
女性によると、Rさんは03年から市内の尾花沢病院に入院していたが、Hさんが「親は自分の家で看病するもんだ」と昨年4月に家に連れて帰ったという。「『母が戻ることになった』とうれしそうに話していた」と女性は振り返る。Rさんは話せず、食事も流動食だったが、Hさんが介護を一手に引き受けた。夜も床ずれにならないよう、2時間に1回は様子を見ていたという。
Hさんは、普段はあまり女性宅を訪れないが、今月3日から5日まで3日続けて訪れたという。「介護疲れで悩んでいる感じだった。そこまで悩んでたなんて。もう少し気付いてあげられれば」と女性はうつむいた。
Rさんの姉(78)によると、Rさんは03年に転倒して以来寝たきりで、その後、話しかけても反応がなくなったという。「私のことが分からないようだった。認知症だったのでは」と話す。
尾花沢署によると、Hさん方は、Hさん、Rさん、妻(54)、長男(24)、長女(21)の5人暮らし。Hさんは、高校卒業後から農業を続けていたが、昨年4月からは、健康食品の販売もしていたという。
毎日新聞
尾花沢市殺人:長男、起訴内容認める 弁護側、責任能力争う姿勢 :山形地裁初公判
尾花沢市で2月、介護していたRさん(当時74歳)を殺害し殺人罪に問われた、長男のH被告(53)の初公判が2日、山形地裁(伊東顕裁判長)であった。H被告は「間違いないです」と起訴内容を全面的に認めた。弁護側は犯行時での心神耗弱を主張。責任能力を争う姿勢を見せた。
弁護側は「精神障害で善悪の判断がつかず、やってはいけない行為を抑えることが非常に困難な状態だった」として、うつ病を主張した。検察側は、ノイローゼだったが責任能力に特段問題はないとした。
検察側は冒頭陳述で、動機について(1)介護疲れ(2)経済的不安(3)会員になった健康食品会社の商品の勧誘で家族や友人と疎遠になり、周囲から孤立――の三つを指摘。「犯行時に母親の担当医から手術の話を勧められた際、『余命2カ月』と言われたと誤解し、母親の病状が良くならないことで将来を悲観した」と述べた。
被告人質問でH被告は「元気だった母があんなみじめな姿になってこれ以上耐えられなかった。施設で死ぬなら自分の家で死なせてあげたかった」と涙ながらに語った。
起訴状などによると、H被告は2月6日正午ごろ、尾花沢市寺内の自宅1階寝室で、自分の腹を刺した後にRさんの首を絞め、さらに包丁(刃渡り約17センチ)で首を2回刺して殺害。その後再び自身の首や腹などを刺すなどして心中を図ろうとした。

【2009年4月 上山市】
 4月に山形県上山市で、夫(84)が介護疲れから寝たきりの妻=当時(82)=を殺害し、殺人罪に問われた事件の裁判。法廷では病気の夫が1人で介護に当たり、貯金を切り崩しながら暮らす介護生活の悲惨さが明らかにされた。裁判長は「老老介護に関しては介護する者の不安を取り除く施設や施策が十分とは言えない」と判決で異例の言及をした。
介護疲れなどから無理心中を図ろうと妻を殺害したとして殺人罪に問われた上山市の無職K被告(84)の初公判が7日、山形地裁であり、K被告は起訴事実を認めた。
検察側は冒頭陳述で「介護していた妻のHさん(当時82歳)の病状が回復せず、自身の体調も優れないことなどから将来を悲観し、無理心中を図ろうとした」と動機を指摘。「4月から介護料金が値上がりすることをヘルパーから聞き、殺害を決意した」と主張した。
冒頭陳述などによると、Hさんは2005年に要介護認定5とされた。K被告は、病気をわずらいながらも、息子や孫に迷惑をかけられないという思いから、介護費用を自身の年金などから出し、1人で介護を続けてきた。
弁護側は「ヘルパーが感心するほど熱心に介護していた。『老老介護』で精神的、肉体的に追いつめられていた」などと主張。親族や地域住民ら約630人が嘆願書を同地裁に提出した。K被告は終始うつむいて、時折ハンカチで目頭を抑えていた。
起訴状などによると、K被告は今年4月2日午前3時頃、自宅寝室で、Hさんの首をネクタイなどで絞めるなどして窒息させ、殺害したとしている。
上山の妻殺害:老老介護の悲惨さが生んだ事件: 猶予判決 山形地裁
介護疲れなどから無理心中を図ろうと妻を殺害したとして殺人罪に問われた、上山市の無職K被告(84)の判決が29日、山形地裁であった。I裁判長は「犯行結果は重大であるが、介護や経済的な負担を抱え、犯行の経緯、動機には深く同情する」などとして、懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役5年)の有罪判決を言い渡した。
I裁判長は動機について「介護、医療費がかさみ貯金を切り崩して生活していた被告が、自らの体調が悪化する中、自分が先に死ねば家族に迷惑がかかると思っていたところ、09年4月から介護料金が値上がりすると聞いて犯行を決意した」と指摘した。また老老介護について「精神面でも経済面でも介護をする者の不安を払拭できる施設や施策が十分にあるとは言い難い」とし「行政に助けを求めなかった被告の気持ちも理解できる」と述べた。
判決後、I裁判長が「奥さんのことを一番覚えているあなたが生きている限りは、奥さんの魂は生き続けるのだから、奥さんのことを覚えて長生きしてください」と話すと、K被告はすすり泣きながら、力強くうなずいた。
判決によると、K被告は4月2日午前3時頃、自宅寝室で、妻のHさん(当時82歳)の首をネクタイで絞めるなどして窒息させ、殺害した。
[判決文(抜粋)]
 介護状況は被害者に床ずれを作らせないなど、医師やヘルパーも感心するほど行き届いたものだった。被害者より先に自分が病死するのではないかという不安も抱くようになった。年金だけでは足りず、少ない貯金を切り崩しながら生活していた。被害者を施設に入れるにも費用が出せない。
 平成21年4月から介護料金が上がると知ったことを契機に、被害者を道連れに自殺しようと決意した。
 老々介護に関しては、精神面でも経済面でも介護をする者の不安を払拭できる施設や施策が十分にあるとまでは言い難いところもあるから、被告人が経済的な不安から行政に助けを求める気持ちにならなかったことも理解できる。
 被告人は、首に傷が付かないよう気遣って、手やネクタイで首をしめた。泣きながら「Hごめんな」「俺もすぐいくから」と話しかけ、頬も寄せたりもして、配慮と謝罪の情も示している。
 被告人の刑事責任を軽視することはできないが、他方では相当にくむべき事情がある。本件は前記量刑分布の下限近くに位置づけるのが適切な事案であって、被告人を実刑に処するのは相当とはいえず、主文の刑を定め、その執行を猶予するのが相当である。

【2009年11月 山形市】
山形の住宅で70代夫婦死亡 妻の介護疲れで心中か
山形市印役町の民家で11月下旬、住人の男性(72)と妻(71)が遺体で発見された事件で、男性が妻の介護疲れで無理心中を図った可能性があることが4日、県警の捜査関係者への取材でわかった。
  山形署は男性が妻を絞殺後、薬物などで自殺した可能性があるとみて調べている。
  捜査関係者によると、遺体周辺や室内に第三者が侵入した形跡が確認できず、部屋が荒らされた跡もないため、死亡時は男性と妻しかいなかったとみている。
  妻はベッド上で掛け布団が掛かった状態で、男性はベッド脇の畳の上で、いずれもあおむけで横たわっていた。

【2010年2月 山辺町】
橋から母落とし殺害 容疑の長男逮捕 介護疲れか=山形
 山辺町大蕨の平(たいら)橋下の雑木林で2009年11月27日、親子2人が倒れているのが見つかり、母親(当時86)が外傷性血気胸で死亡した事件で、山形署は1日、一緒に倒れていた東村山郡の無職の長男(45)を殺人の容疑で逮捕した。
  発表などによると、長男は母親を乗用車に乗せて橋まで連れ出し、約20メートル下の斜面に転落させた疑い。
  母親を先に転落させ、その後自分も飛び降りたとみられ、長男は事件後、「自分で母親を落とした」などと供述したが、逮捕後は、動機や犯行の方法について「覚えていない」などと供述している。
  山辺町役場関係者などによると、母親は足に障害があり要介護度「5」で、自立歩行が不自由な状態。男は精神疾患の治療をしながら母親を介護していた。同署は、男が介護疲れから心中を図った可能性もあるとみている。
  役場関係者は「民生委員らが訪問しても『大丈夫だ』と言われ家に入れなかったようだ。老々世帯や高齢独居世帯に比べ、親子世帯なので危険が少ないとの判断もあったのでは」と話している。

【2010年12月 秋田(遊佐町)】
昨年12月孝行息子が母親を殺した『秋田の老老介護殺人』の判決
今月2日、秋田地裁で判決言い渡しがあり、B裁判長は懲役3年、執行猶予5年を言い渡した。
【事件】
 昨年12月11日午前7時50分ごろ、秋田市新屋の交番に1人の男が現れた。
 「自宅で母親を殺しました」-。
 男の話を聞いた警察官が県営住宅1階の一室に駆けつけると、寝室の中央に敷かれた布団の中で、仰向けになった母親Iさんが冷たくなっていた。119番通報で駆けつけた救急隊員は、母親Iさんに呼吸も脈もなく、死後硬直がみられたことで、病院に搬送はせず、午前9時28分、医師が死亡を確認した。
 逮捕、起訴されたのは息子のK被告。警察の員面調書などによると、K被告はその日の午前5時ごろ、寝ていた母親Iさんの脇に正座した。手には介護に使っていたクッキングペーパー。それを母親Iさんの顔にかぶせ、その上から右手で鼻と口を押さえた。
 母親Iさんは1度、息を吹き返したが、K被告は構わずそのまま1~2分押さえ続けた。母親Iさんはやがて動かなくなった。
【背景】
 K被告は、山形県遊佐町に長男として生まれた。下には妹2人がいた。
 農業を手伝った後、塗装工として県外で働くようになったが、20代半ばの頃、父親が用水路に転落し、脊髄を損傷して車いすでの生活を余儀なくされたことから帰郷した。仕事の傍ら、父親の介護をする母親Iさんを手伝い、ともに介護をするようになった。
 やがて母親Iさんが加齢のため体力が落ちると、床ずれの治療やおむつの交換など、力がいる世話は、K被告が中心になってやるようになった。
 さらに平成14年に父親が亡くなるころ、母親Iさんは認知症にかかり、徘徊するようになる。その後、足も不自由になり、寝たきりの生活に。K被告は母親Iさんの介護を独力でするようになる。そして、独身のまま50代を迎えていた。
【法廷】
秋田地裁1号法廷で開かれた公判で、弁護士は被告人質問でK被告に介護の状況を訊いた。
 弁護士「母親にどんな食事をさせていましたか」
 被告「北海道のレトルト食品会社から取り寄せた10種類をミキサーにかけ、おかゆやサツマイモ、カボチャのつぶしたものを与えていました。冷蔵庫に小分けして保存していました」
 弁護士「どんな味付けでしたか」
 被告「母は甘い物が好きでした。でも砂糖は体に悪いと思い、はちみつを入れていました」
 弁護士「いつ食べさせるんですか」
 被告「朝と晩は自分が。昼はヘルパーの人が食べさせてくれました」
 弁護士「尿の処理は?」
 被告「最初はリハビリ用のパンツ。おむつをはかせるようになりましたが、自分で出せなくなり、カテーテルが入れっぱなしになりました」
 母親Iさんは数年前から、膀胱炎や腎盂炎にかかり、40度の高熱を出しては市内の病院に3回入院した。
 その都度、抗生物質を投与され、退院。事件の2週間前も4度目の退院をしたばかりだったが、事件の前日に再び発熱した。
 往診の医師やヘルパーが薬を投与し、夕方には熱が37・4度まで下がった。だが、ゼーゼーと息は荒いままだった。
 ヘルパーが帰ると、K被告は、さんの大好物のプリンをさじで口に持っていった。が、食べようとしない。スポーツドリンクを飲ませようとするが、飲み込まない。
 「大丈夫?」「食べないとだめだよ」-。声をかけながら、30分おきに何度か食べさせようとしたが、駄目だった。
「病院で管を通されるなら、自分の手で…」
(弁護)
 被告の弁護士は、被告人質問で、彼が介護に疲れて殺害したのではなく、病院で管をつながれて最期を迎えるのに耐えられなかったからだ、という趣旨の言葉を引き出そうとする。
 弁護士「以前の入院と比べて、どう見えましたか」
 被告「非常に(病状が)悪いと感じました。息が荒く苦しそうだった」
 弁護士「そうした容体を見てどう思いましたか」
 被告「このままでは長くないのではないか。寿命が尽きかかっているんじゃないかと-」
 弁護士「病院に連れて行こうと思いませんでしたか」
 被告「思いました」
 弁護士「なぜ、そうしなかったのですか」
   被告「前に入院させたとき、医者から胃に管を通して栄養を入れる手術を勧められ、反対だったからです」
 弁護士「なぜ反対なのですか」
 被告「母はだんだん体力がなくなり、目は見えなくなり、耳も聞こえなくなっていました。最後の味覚まで奪われて、管を入れられて最期を迎えるのは、母にとって、あまりに酷で悲しいこと。とても見ていられませんでした」
 弁護士「そして、どうしようと思ったのですか」
 被告「延命措置はだめだ。これ以上苦しませたくない。楽にさせてやりたいと思いました」
 K被告は犯行後、風呂場の介助用アームに電気コードをくくりつけ、首をつろうとしたが死にきれず、交番に自首した。
(裁判員)
 だが裁判員は、K被告が介護疲れの末に起こした殺人事件ではないか、という疑問を呈した。裁判員の女性の1人は問いただした。
 「長年介護してきて、自分もこれ以上苦しみたくないという気持ちはありませんでしたか」
 被告「苦しいとかやりたくないとか、そういう気持ちがあれば、介護なんかできません。でも、本当にそうか(自分が疲れたから殺害したのか)といわれれば、(介護に)疲れたこともあったし、長く続けたくないと思ったこともあります」
(家族)
 酌量を求める家族、勤務先からは嘆願書も
 証人として出廷した、東京都内に住む3歳違いの妹は涙ながらに兄をかばった。
 弁護士「あなたはどれぐらい母親を訪ねていましたか」
 妹「年に2回ぐらいしか来られなかった。兄の言葉に甘えて、まかせっきりにしていました」
 弁護士「母親に手をかけた兄をどう思いますか」
 妹「不謹慎かもしれませんが、兄は愛情を持って母を介護していました。天国まで導いてくれたんだと思います」
 被告も目頭を押さえた。
 弁護士「許せない気持ちは?」
 妹「あるはずないです」
 弁護士「(山形県の)お墓に、母親といっしょに加害者の被告も入れますか」
 妹「入れます。母を愛情深く見守ってきたのですから…」
 K被告の減刑を求める嘆願書を集めた勤務先の会社の社長も証人として出廷した。
 被告の真面目な働きぶりを紹介し、「できるだけ早く社会にもどれるようにしてほしい」と訴えた。
(検察)
  検察側は論告で、母親Iさんが事件前まで食事をし、押さえられた口から息を漏らしたのは「生きようとする最後の抵抗だった」と指摘。「その命を奪った重大さは許されない」と厳しくK被告の行為を断罪した。
 また、K被告は母親Iさんの分を合わせて年金16万円、塗装工として約13万円の月収、さらに預金が約200万円あり、ヘルパーなどの支援を受け、ドライブや映画を楽しむ余裕があったとして、「ぎりぎり追い込まれての犯行でなかった」と述べた。
 さらに、進行する高齢化社会の中で、「安易に軽い刑を科せば、同様の事案が発生することを抑制できなくなる」と社会に与える影響を挙げ、懲役6年の判決を求めた。
 一方、弁護側は献身的な長年の介護や自首の事実、罪に対する自覚などを挙げて、情状酌量し、執行猶予判決を出すよう求めた。
【判決】
 B裁判長は執行猶予判決とした理由として、自首していることや罪を自覚していることに加え、「献身的な介護を10年も行っていたのであって、被害者に対し、深い愛情をもって接していたことは疑いがない。犯行当日に被害者がもう助からないかもしれないと思い込んだとしても無理からぬ面がある」と情状酌量した。
 もっとも殺害行為については、「医師による治療を受ければ被害者の容体が安定する可能性があり、ほかに適切な手段をとることができた。そもそも、そのような理由で人の命を奪う行為は正当化されるものでない。生命を奪うという結果を生じさせたことは重大」とも述べ、被告の殺害行為を非難した。
<現状>
 厚生労働省の平成22年度高齢社会白書によると、65歳以上の高齢者がいる世帯は平成20年度現在1978万世帯で全世帯の約41%。
 65歳以上の要介護等と認定された人は19年度末で約438万人。世話をする介護者が60歳以上の「老老介護」は、全体の60・8%にも及ぶ。その半数以上にあたる36・2%が70歳以上。

【2011年4月 酒田市】
酒田の住宅で男女2遺体発見 病死と自殺か
 22日午前10時半ごろ、酒田市若竹町2の住宅で、男女2人が和室の布団の上で死亡しているのを、大家の男性が発見した。大家はこの住宅に住む90代の女性と、60代の息子の2人と連絡が取れないため、部屋に入った。県警捜査1課などは、男女はこの親子ではないかとみている。同課などは、女性に目立った外傷がなく、男性は首にひもの痕があったことなどから、女性が病死し、男性が自殺した可能性が高いとみて調べている。
 同課によると、遺体の傷み具合などから、ともに死後数日が経過しているとみられる。
 近くの美容師の女性(70)は「こんなことになるんだったら、日ごろから声を掛けたり、様子を見に行ったりすべきだった」と顔を両手で覆い声を詰まらせた。今月初めに新聞販売店の従業員が「電話をしても応答がなく集金ができない」と困った様子で来た時も、連れ立って訪ねることもしなかったと悔やんだ。

【2011年4月 鶴岡市】
寝たきりの義母にけがをさせたとして、山形県警鶴岡署は2日、鶴岡市小名部、無職S容疑者
 (58)を傷害容疑で逮捕した。暴行後、義母は死亡しており、同署は死因を調べている。
 発表によると、S容疑者は4月30日夜、自宅寝室で、同居する義母のS子さん(84)の顔を引っかくなどしてけがをさせた疑い。
 S容疑者が5月1日正午過ぎ、「義母が亡くなっている」と鶴岡署に通報した。駆け付けた署員が検視を行い、S子さんの顔や首などに外傷を確認した。2日午後に司法解剖する。
 S容疑者は調べに対し、「引っかいたことは間違いない。1人でやった」などと供述しているという。
 S子さんは介護が必要だったという。S容疑者は、S子さんと、その夫(84)、同容疑者の次男(29)との4人暮らし。

【2011年7月 鶴岡市】
民家から女性2人の変死体 山形・鶴岡、無理心中か
 11日午後8時10分ごろ、山形県鶴岡市の男性(67)から、妻(66)と次女(38)が死亡していると119番通報があった。
 県警鶴岡署によると、妻は1階の居間で倒れており、次女は物置で首をつっていた。妻の首には絞められた痕があった。家の中が荒らされた形跡はないという。
 同署は状況などから無理心中の可能性があるとみて調べている。この家は3人暮らし。

【2011年7月 真室川町】
真室川母親殺害懲役8年
 自宅で実母を殺害したとして、殺人の罪に問われた真室川町新町、元醤油(しょうゆ)製造会社副社長K被告(56)の裁判員裁判の判決が1日、山形地裁であった。
 Y裁判長は「自殺を考え、妻子に迷惑がかからないよう母を殺害した動機は身勝手」などとして、懲役8年など(求刑・懲役13年など)を言い渡した。
 判決でY裁判長は「被害者の首をベルトで絞め、倒れた後も両手で首を押さえ続け、さらに胸部を包丁で突き刺した極めて残忍な犯行」と指摘した。
 一方で、弁護側が主張した、会社経営がうまくいかず、認知症の母を抱え思い悩んでの犯行だったとの点については、「経営の悩みなどを抱えながら相談できる相手がおらず、追いつめられていた」と述べ、弁護側の主張を認めた。また、複数の嘆願書が寄せられ、遺族も処罰を望んでいないと、判決の理由を説明した。
 判決文を読み終えたY裁判長は「今後は自分のことも含めて命をもっと大切に生きてほしいと思います」と語りかけた。

【2012年2月 朝日町】
 5日午後0時40分ごろ、山形県朝日町の無職男性(67)方で、男性と母親(93)が
死亡しているのを訪れた親戚が見つけ、110番した。
 寒河江署によると、男性は2階の屋根裏部屋で首をつった状態で見つかった。母親は1階で倒れており、首を絞められたような痕があった。2人とも死後2~3日経過しているとみられる。
 室内に荒らされた跡はないという。同署は無理心中の可能性もあるとみて死因を調べている。母子は2人暮らし。

【2012年7月 鶴岡市】
77歳と54歳 生活保護受給の親子が心中か 山形・鶴岡市 
  9日午後1時半ごろ、山形県鶴岡市双葉町の無職、O子さん(77)の住宅で、息子のTさん(54)が廊下で首をつって死亡しているのを訪れた親戚が発見し、110番通報した。
 駆け付けた鶴岡署員が茶の間で座ったまま亡くなっていたOさんを見つけた。
  県警によると、2人に着衣の乱れや目立った外傷はなく、遺書らしきメモが残されていたことから 心中の可能性もあるとみて死因を詳しく調べる。
  鶴岡市によると、Oさん宅は2人暮らしで生活保護を受給していた。
 1カ月当たりの生活保護費9万6200円のほか、親戚から援助もあったという。
 Oさんに介護の必要などはなかったが、息子に疾患があったという。
  担当の民生委員が連絡を取れないのを不審に思い、親戚に連絡した。

【2012年8月 鶴岡市】
 13日午前8時半ごろ、鶴岡市城南町の民家で、「母親が息をしていない」と家族から119番通報があった。救急隊員が駆け付けたところ、この家に住む無職、Yさん(76)が寝室で死亡していた。Yさんの背中や手足にあざなどの外傷があり、鶴岡署が同居の長男で団体職員、S容疑者(51)に事情を聴いたところ「12日夜、横になっていた母親の背中を蹴った」などと暴行を認めたため、14日未明に傷害容疑で逮捕した。

 
 検察庁の冒頭陳述によると、被告は2012年8月午後10時頃、同居する母Yさん(当時76)が酒に酔っていることに腹を立て、頭をコップの底で殴るなどして、頭蓋内損傷で死亡させたとされる。弁護側は、被告は飲酒をやめられないYさんのことで悩んでおり、事件は偶発的なものだったとして、寛大な処分を求めた。(朝日)

【2012年9月 酒田市】
無理心中?:自宅物置で夫妻?が死亡
 14日午後3時半ごろ、酒田市飛鳥、無職、Mさん(82)方の木造2階建て物置小屋の2階で妻のYさん(76)が死亡しているのを、酒田署員が発見した。さらに1階からMさんとみられる男性遺体が見つかり、同署は身元の確認を急いでいる。同署は無理心中の可能性があるとみて捜査を始めた。
 同署などによると、Mさん方は2人暮らし。男性の遺体は1階で布団で横たわった状態で見つかった。年齢70~80歳で、腐敗が進んでおり死後数週間が経過しているとみられる。またYさんは死後数日が経過しているとみられる。2人とも目立った外傷はなく、司法解剖をして身元と死因を調べる。

【2013年2月 鶴岡市】
鶴岡の79歳女性殺害:夫を殺人容疑で逮捕 「一緒に死のうと思い」
 鶴岡市馬町の民家で、この家に住む無職、H子さん(79)がベッドで死亡しているのが見つかった事件で、鶴岡署は16日、同居する夫の無職、N容疑者(80)を殺人容疑で逮捕した。「自分も一緒に死のうと思い妻を殺した」と容疑を認めている。
 逮捕容疑は、15日、自宅1階の寝室で、H子さんの首を布製のひもで絞めたうえ、両手で絞めて殺害したとしている。
 同署によると、16日の司法解剖の結果、死因は首を圧迫されたことによる窒息死と判明した。また長女(57)がH子さんを15日正午ごろに見ており、直記容疑者がH子さんの首を絞めたのは同日正午から午後4時半までの間とみられる。
 同署によると、ベッドの上に刃物があった。N容疑者の左足首に切り傷があったため関連を調べている。長女がHさんを発見したときN容疑者はベッドの横に立ってじっとしていたという。H子さんは寝たきり状態で認知症の症状があったといい、N容疑者も病気で約1カ月前から入院していて数日前に退院したばかりだった。N容疑者は自分の体調のこともあり、妻を残しては死ねず、子供たちに迷惑をかけられないという話をしているという。【毎日新聞】

【2013年2月 朝日町】
・父母の面倒見るのが嫌に…失職37歳、自宅放火
同居の父母の世話を苦に自宅に火を付けたとして、山形県警寒河江署は26日、山形県朝日町松程、無職H容疑者(37)を現住建造物等放火容疑で逮捕した。
 発表などによると、H容疑者は25日午後7時頃、1階居間に灯油をまいて火を付け、木造2階住宅約126平方メートルを全焼させた疑い。約2時間15分後に鎮火し、けが人はなかった。
出典父母の面倒見るのが嫌に…失職37歳、自宅放火(読売新聞)
 県警幹部によると、H容疑者は調べに「目の悪い父や足の悪い母の面倒を見るのが嫌になった。仕事を失い、生活も苦しかった。家を燃やし、今の暮らしを抜け出したかった」と供述している。H容疑者は父(75)と母(62)の3人暮らし。両親の年金で生活し、H容疑者は2人の身の回りの世話をしていた。
 H容疑者は自宅に火を付けた後、2人を車に乗せて同県南陽市に向かい、同日午後9時半頃、南陽署に出頭した。両親は近くの駐車場に止めた車の中にいた。H容疑者は「事態の重大さに気付き、罪の意識にさいなまれて名乗り出た」と話しているという。